トヨタのWRC復帰とオーディションの件
トヨタは古くからWRCに参戦していましたが、1999年にWRCを撤退していましたので、18年ぶりの参戦となります。
日本の自動車メーカーがWRCに戻ってくるのは大変感慨深いです。
一昔前、筆者が中学生、高校生の頃は、日本車がWRCを席巻していて、トヨタのほかに、スバル、三菱、マツダ、日産、スズキ・・・などなどのメーカーが継続してWRCに参戦し、優勝争いをしていました。
筆者はそれを雑誌やビデオ、NHK BSのダイジェスト放送などで見て、憧れてラリーを始めました。
いつかはWRCにワークスチームで出たい、いや、出るぞ・・・
と思って、筆者は日本やアメリカでキャリアを積んでここまで頑張ってきました。
残念ながら、まだ実現出来てませんが。
そのトヨタですが、日本人若手ラリードライバーをオーディションして選抜して育てる、という事をやるそうです。
素晴らしい試みだと思います。
本当は、オーディションじゃなくて、例えば全日本ラリーなどで好成績を残した人に世界への切符を与えるべきだと個人的には思いますが、この際それは置いておきます。
が、年齢制限が26歳以下、となっていますので、筆者はこの募集への応募資格がありません。 。。
めっっっちゃくちゃ残念です。
生まれた時代はどうすることもできません。
しかし、
山本悠太選手が一次選考を通過したようです!
彼が免許を取って走りだす頃から、ダートトライアルで全日本に出始めた頃までお付き合いがありました。
一緒に練習に行って、横に乗ったり乗ってもらったりしながら、お互い頑張ってきました。
筆者のラリー参戦にも、サービスメカニックとして協力して貰ったこともありました。
筆者が日本を離れて、あっという間にダートトライアルの中部地区戦、そして全日本でもチャンピオンになりました。
思えば、18、19歳の免許取り立ての頃から、驚くほど完成された走りをしていました。
Gazoo Racingのホームページによると、2次選考はフィンランド(!)で実技審査をやるようですが、何とか選考を突破して欲しいと思います。
そして、選ばれたドライバーは、日本の代表として、世界で暴れてきて欲しいですね。

ラリーについてよく聞かれる質問にお答えします! おかわり
色んな人に見て頂いて、結構反響がありました。
分かりやすい、という声・・・これはラリーをあまりご存じない方から。
そうそうあるある、という共感の声・・・これはラリーストから。
Why you wrote in Japanese only? という声とか・・・これが主にアメリカの方から。
で、追加の質問を一部の方から頂きましたので(笑)ついでにお答えしておきます。
Q:タイヤはどんなものを使うの?どれ位持つの?
えーと、まず使うタイヤから。
舗装路と未舗装路で使うタイヤは変わります。
未舗装路では、ゴツゴツしたブロックパターンを持つタイヤ、通称ラリータイヤを使用します。
未舗装路は舗装路より滑りやすいので、タイヤの大きなブロックで路面を引っ掻いて食いつかせる為に、このような顔つきをしています。
同じタイヤでも、ゴムが柔らかい、ゴムが硬い、といった種類(コンパウンドといいます)があります。
また、路面が柔らかい場合や雨の場合は、溝がより深いタイヤを使ったりもします。
未舗装路は石が転がっていてパンクしやすいので、補強の為にタイヤの横面(サイドウォールといいます)はゴムが分厚くなっていて耐パンク性能を上げてありますので、普通のタイヤに比べて、全体的に硬くて重いです。

次に舗装路ですが、全日本ラリー選手権では、溝が少なく、ゴムが一般のタイヤに比べて柔らかい、通称Sタイヤを使用します。
溝が少なく、ゴムの面を路面に多く当てて、路面との摩擦でゴムを溶かしながら、粘着させて食いつかせるようになっています。
筆者はダンロップ様のタイヤを長年使っていますが、一番柔らかいタイヤはS(ソフト)、真ん中はM(ミドル)、硬めはR(レース?)というように、同じサイズでもコンパウンドがあって、これを路面状況や天候で使い分けます。

ラリーによっては、舗装路で使うタイヤの種類を制限し(例えばSタイヤ禁止、ラリータイヤのみOK、など)コストが掛り過ぎないようにしているものもあります。
未舗装路でも舗装路でも、車検の通らないレベルまで摩耗した(溝深さ1.6㎜以下)タイヤは使えません。
次に、タイヤの寿命ですが、
ラリータイヤ、Sタイヤ共に、競技用と言う事で、速く走る事に特化した作りになっており、寿命は一般のタイヤに比べてかなり短いです。
人や車、ラリーの距離や天候にもよりますが、全日本ラリーでは、一つのラリーで大体6本から12本位タイヤを使います。
(全日本ラリーでは、一つのラリーで使って良いタイヤの本数がルールで決められています)
コースによっても、タイヤに厳しい(つまりタイヤが減りやすい)、タイヤに優しい、といった特性があります。
一般的には、大きく重くパワーのある車、つまりランサーエボやインプレッサはタイヤが良く減りますし、タイヤも大きいのでお金が掛ります。
逆に、軽く小さくパワーのない車、例えばヴィッツやデミオやフィットやマーチ・・・などはタイヤがあまり減りませんし、タイヤサイズも小さいのでタイヤが安く、重い車よりも経済的です。
全米ラリー選手権ではSSの距離が200㎞を超えますが、とりあえず筆者は1戦あたり4から6本で十分でした。
WRC(世界ラリー選手権)でも使われている、D-MACK製タイヤを使いましたが、全然減りません。
タイヤが硬いのか、フォーカスのパワーが無いのか、筆者が遅いのか(笑)・・・まあ全部だな。
但し、耐バースト性能は非常に高そうです。
めっちゃくちゃサイドウォールが硬く、タイヤ屋さんに組み付けを断られるレベルなので、少々の石ごときではビクともしない感じです。
最後はタイヤの選び方です。
タイヤ選択はラリーにおける重要な戦略の一つで、タイヤ選択を間違えると大きくタイムを失います。
ラリーは広範囲でSSが行われる為、例えばSS1は雨だけど、SS2は晴れ、とか、SS1は距離が長いけど、SS2は短い、とかが良くあります。
タイヤは通常2本、スペアとして車に乗せて走行する事が出来るので、天候や距離などでSS前にタイヤを換える事もあります。 この辺りはラリー戦略の一つであり、チーム監督やコドライバー、タイヤエンジニアの方々と相談して決めます。
メカニックはサービスパークの決められた場所の中で、決められた時間しか車に触れてはいけないルールになっているので、SS前のタイヤ交換や、SS中にパンクした際のタイヤ交換はクルーが自ら行います。
ですので、通常の場合ラリーカーには、タイヤ交換をする為のレンチやジャッキが、スペアタイヤと共に搭載されています。
決してラリー中にオートバックスやイエローハットやジェームスに寄っている訳ではありません。
自分たちでタイヤを替えます。いや、自分たちで替えなければルール上ダメなんです。
リエゾン(一般道を移動する区間の事)の中でタイヤを替えたいときは、安全な場所に車を停めて行います。
例えば、道の駅とか、コンビニやガソリンスタンドの一角をお借りするとか。
余談ですが、リエゾンでは、次のSSの前の地点に、指定された時間までに行けば良いので、時間に余裕がある時は、ラリーのルート上にある、道の駅とか、コンビニとか、あとはラリーの指定給油所で休憩したり、腹が減ったら買い食いしたりします(笑)
タイヤ交換もそういった時に行う事が多いです。
ルート上で、どこに道の駅があるか、どこにコンビニがあるか、なども事前に調べておいた方が得策です。
SS中にパンクしたら、SSの中で、路肩に車を停めてタイヤ交換をします。
この時が、ラリーで最も心が折れそうになるひと時です。
タイヤ交換に掛かった時間が、そのままSSタイムとして加算されてしまいます。
手際よくタイヤ交換を済ませるスキルもラリードライバーには必要です。
逆に、SS走行中にライバルが路肩でタイヤ交換をしているのを見たら、心の中でグッとガッツポーズです。
決して喜びすぎて声を上げたり、態度に表したりしてはいけません。
ペースノートの指示を聞き逃して次のコーナーでクラッシュする危険性が高まります。
ラリー終盤など、勝負が掛ったSSの前には、サービスでスペアタイヤを1本車から降ろし、車を軽くして勝負を掛ける!という事もあります。
ラリーで使い終わったタイヤは状態を確認し、次戦に回せるものは回し、摩耗して使えそうにないものは練習用にします。
Q:年間どれくらいお金を使うの?
あまり出納管理をきっちりしていないので(笑)良くわかりませんが、
例えば、全日本ラリー選手権のどれか1戦に出るのに、
エントリーフィーが、大体150000円前後
タイヤ8本を新品として、1本20000円とすれば、160000円
現地までの交通費
レッキ代
ガソリン代
ラリー中の宿泊費(エントリーフィーに込みの場合もあります)
サービスメカニック登録料(メカニックを連れてくる場合)
その他の消耗品代
食費
などなどで、1戦あたり40~50万位でしょうか・・・
もちろん安くしようと思えばもう少し安く出来るし、逆に高くしようと思えば幾らでも出来ます。
支援して頂ける企業様から、どれだけサポートを頂けるかでも変わってくるでしょう。
費用はコドライバーの方と折半、という方もいるでしょう。
その辺りは人に寄ります。
Q:何km/h出るの?
車にもよりますので、一概には言えないのですが。
パワーのある車、例えばランサーエボリューションやインプレッサ、などで、 最高速度は200km/hをちょっと超えるかどうか、と言ったところです。
日本の道はくねくねしていて直線が短いので、最高速度は低めです。
ただし、全日本ラリーの中でも、「ラリー北海道」は他とはちょっと違っていて、直線1km、とかあります。
そこで200km/h以上出ると思います。
群馬で行われている全日本ラリーのイベント、「モントレー」もかなりスピードが出るようです。
全日本ラリーの最終戦である、愛知県の「新城ラリー」でも、元有料道路をSSにしている場所があって、そこもスピードが出るSSです。
昔、ホンダシビックTypeR(FD2)で参戦していた時は、新城ラリーで190㎞/h位。
三菱ランサーエボリューション9でラリー北海道に出た時も、190km/位出てました。
ちなみに、ラリー中はスピードメーターは見ません。
後からビデオで確認して最高速を知りました。
メーターを見ながら走っていたら危ないですし・・・
Q:賞金も出ないのに、何でラリーやってるの?
好きだから、楽しいから、勝ちたいから、昔からの憧れだったから。
ですかね。
あと、そういう質問にはこう答えます。
何でラリーやらないの? やらなくて良いの? と・・・
以上、ラリーに関する質問に答えますコーナー、参考になりましたら幸いです。

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